細胞質不和合

 共生微生物Wolbachiaは宿主の生殖を操作します。そのうちの一つとして細胞質不和合という現象が知られています。1系統だけのWolbachiaに感染している場合、非感染雌と感染雄の組合せのときふ化率が減少します。タイリクヒメハナカメムシという捕食性天敵は2系統のWolbachia(AおよびBとします)に感染しています。日本各地の個体を調査した結果、AまたはBの単感染の個体とABの多重感染の個体が存在します。うちの研究結果、Aは宿主のふ化率や産卵数および生存率に対しては中立で、Bは不和合を起こしています。今、論文として投稿しているのですが、A系統はB系統の邪魔をしているようです。宿主に対しては影響はほとんどないA系統がWolbachia同士の戦いではB系統に勝っている。B系統は宿主に対しては強い細胞質不和合を示すので個体群中に広がるのは簡単です。一方、A系統はほとんど中立ですから宿主個体群に広がるのは偶然がほとんどだと考えられます(実際、地域ごとの感染率の値の幅は非常に広い)。どうしてこんな事になっているのか今後in situなどで調べなければいけません。