今年の論文1

"Male rescue maintains low frequency parthenogenesis-inducing Wolbachia infection in Trichogramma populations. Population Ecology 51: 245-252"
今年1本目の論文です。
 共生微生物Wolbachiaは卵寄生蜂Trichogrammaを産雌性単為生殖にします。産卵数や生存率が同じと考えた場合、単為生殖の増殖率は両性生殖より高くなります。そのため、短期的には単為生殖個体が個体群の大半を占めると考えられます。例えば、コナジラミの寄生蜂Encarsia formosaはほとんどが産雌性単為生殖であり、雄はほとんど認められません(ときどき出現はします)。しかし、野外でTrichogrammaの感染率は20〜30%ぐらいです。なぜでしょう?友人のStouthamerさんは、1.PSR、2.抵抗性遺伝子、3.母親から娘への垂直感染率が低いなどのが原因で感染率が低いと考えております。彼はPSRを見つけ、PSRが感染率の低い原因だとしています。ただ、PSRはTrichogramma kaykaiという1種からしか見つかっておりません。また、2はまだ見つかっていませんし、垂直感染率は非常に高く1に近いです。これらの仮説は個体群中にほぼ100%Wolbachia感染個体だらけになるはずだという暗黙の了解があります。
 私たちはAnnals of the Entomological Society of America 97: 765-769、Journal of Invertebrate Pathology 78: 267-271、Entomologia Experimentalis et Applicata 105: 165-167でWolbachia感染個体の増殖率は非常に低いために絶滅しても良いはずである。しかし、絶滅しないで20〜30%に押し上げている理由を明らかにしようと考えました。その結果、Wolbachia感染雌が雄と交尾をして精子を利用することで増殖率が上がることを明らかにしました。Population Ecologyの論文は野外でも交尾によって増殖率が上がり、感染個体が生き延びているかどうかをシミュレーションにより確かめた論文です。この論文はSさんやYさんとの共著であり私にとって思い出に残る一つです。